今回は皆さんが薬剤師の仕事としてパッと浮かぶ調剤についてです。
病院薬剤師の調剤は大まかに内服薬調剤と注射薬調剤の2つの調剤に分けられます。
内服薬調剤
内服薬調剤は一言で「薬の取り揃え(ピッキング)」です。医師の処方箋に基づいて薬を棚から取り揃えます。「なんだ、薬を出しているだけか」と思ったかもしれません。しかし、一言でピッキングといっても実は簡単ではないんです。実際に調剤を行う手順をお話していきます。
~処方監査~
- 用法用量が間違っていないか
- 薬の飲み合わせが悪くないか
- 腎臓や肝機能に合わせて薬の調節は必要か
- 注射薬も含めて同種同効薬の重複はないか
- 疾病禁忌に該当していないか 等
処方箋の内容を患者の検査値や病歴、治療背景から監査していきます。特に腎機能や肝機能による薬剤の調整は薬剤師の専門分野であり、医師へ問い合わせをし薬の減量や増量を提案していきます。
医師も人間であり、処方を間違えることがあります。例えば「タケルダ配合錠」と「タケキャブ錠」。頭の二文字は同じですが薬の効果は全く異なります。実際に本来「タケルダ配合錠」を処方すべきところ「タケキャブ錠」を処方してしまったケースがあり、薬剤師が発見し事故を防いだこともあります。
~調剤~
処方箋に従って必要数の薬剤を取り揃えます。
例:
タケキャブ錠10㎎ 1錠 分1 朝食後 28日分 → 28錠取り揃え
エクア錠50㎎ 2錠 分2 朝夕食後 28日分 → 56錠取り揃え
粉薬は粉の全量、水剤は水剤の全量や一回量を計算し取り揃えます。その他特殊な調剤として医療用麻薬の調剤、一包化調剤といったことも行っています。
~監査~
調剤を行った薬剤師とは別の薬剤師がもう一度処方監査を行い「処方が間違っていないか」「数量が間違っていないか」を最終確認をします。ここで見逃してしまうとそのまま患者に薬が渡ってしまう危険性があるため、最後の砦ともいわれています。
注射薬調剤
注射薬も「処方監査→調剤→監査」の手順は内服薬調剤とかわりません。しかし、内服薬調剤と異なり注射薬は患者の血管に直接薬が入るので処方監査のポイントが増えます。
~処方監査~
- 用法用量が間違っていないか
- 腎機能や肝機能に合わせて薬の調節は必要か
- 内服薬調剤と同種同効薬はないか
- 疾病禁忌薬はないか
- 点滴速度が間違っていないか
- 薬の配合変化はないか
点滴速度は注射薬にのみ存在する大きなポイントです。薬の中では点滴速度が指定されているものも少なくありません。点滴速度が速すぎるとアレルギー症状が出たり、副作用が強くでたりする薬もあります。逆に遅すぎると薬の効果が100%得られない薬もあります。そのため薬に応じた投与速度をしっかりチェックしていきます。配合変化も重要です。薬を溶かす液体と薬の配合変化がないかをチェックしていきます。薬によっては混ぜるとすぐに沈殿して溶けなくなる薬もあるので、配合変化がないのかを確認することはとても重要です。
~調剤~
基本的には翌日使用する注射薬を患者ごとにセットしていきます。最近ではアンプルピッカーと呼ばれる機械を導入している病院も増えてきており、注射薬調剤は機械が行う仕事になってきています。しかし、輸液等大きな薬に関してはまだ人が取り揃えをする必要があり薬剤師が一つ一つ手作業で患者の薬をセットしています。
~監査~
内服薬調剤と同様、処方監査を行った薬剤師とは異なる薬剤師が再度処方監査を行い、最終チェックを行い各病棟へ運んでいきます。
まとめ
内服薬の処方箋は病院の規模にもよりますが、600床~1000床程度の規模で1日400~1000枚程度です。すべての処方箋を監査し毎日調剤を行っています。病院によって調剤に関わる薬剤師の人数は異なりますが私のいた病院では5人程度で調剤業務を行っていました。どうしてもミスはゼロにできないですが、なんとかミスをしないように毎日神経をつかいながら調剤を行っています。
注射は毎日1日分セットしているため、注射を使用している患者の数だけ処方箋があります。600床あれば400人分程度の注射は毎日セットしていると思います。
病院の中の薬剤師はなかなか表に出ることはありません。しかし、裏で患者の命を守るために毎日必死に働いています。まさに縁の下の力持ちなのです。病院で薬剤師を見かけたら、「いつもありがとうございます!!」と是非声をかけてあげてください。
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